外傷(Trauma)シリーズ3 RESIDENT COURSE 解答 【症例 TR 11】

空腸穿孔II a(O). Perforation of jejunum(AAST grade I)






肝臓周囲に遊離ガスがある(↑)が,遊離ガスだけでは消化管穿孔の確定診断とは言えない(下記)ので,他の所見すなわち腹水(または局所性液貯留),腸管壁肥厚,または腸間膜の濃度上昇( infiltration, stranding,streaking)を検索する.図4〜図8で胃後方に液貯留(腹水:※)を認め,図13〜図16では骨盤腔内に大量の腹水(※)があり,さらに図13と図14の△は造影された腹膜であり,汚染された腹水による腹膜炎を強く示唆する.図9の1から空腸が始まり数字の順に進展するが,図6の上部空腸6〜図12の12まではある程度の内容物を含みながら壁は1cm程度の肥厚を呈している(▲).以上の所見から上部空腸穿孔と診断する.図14〜図16の白矢印のガスは膀胱内のガスで,フォーリーカテーテルを挿入時に注入されたガスで,遊離ガスではない.手術でTreitz靱帯から10cmの部位での穿孔と汎発性腹膜炎を認めた.











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参考症例(回腸穿孔):54歳男性.馬に下腹部を蹴られ,腹痛が次第に増強したので来院.Vital signsは安定.右下腹部に圧痛,反跳痛と筋性防御を認めた.






遊離ガス(↑),腹水(※)と腸間膜の濃度上昇(▲)を認めるので右下腹部の消化管穿孔である.図5〜図9の,糞便様の△は腸管壁を認めず,腸管との連続性もないので腸管外に漏出した腸管内容物であり,回腸かS状結腸(S)の穿孔を意味する.図11の白矢印は大腿動脈より高濃度を示し,extravasationではなくリンパ節の石灰化であろう.手術で盲腸から50cm口側で回腸穿孔を認めた(図A:↑).







文献考察:消化管穿孔のCT所見
1)Hanks PW, Brody JM.  Blunt injury to mesentery and small bowel: CT evaluation. Radiol Clin North Am. 2003 Nov;41(6):1171-82. Review. PMID: 14661664
2)Butela ST, Federle MP, Chang PJ, Thaete FL, Peterson MS, Dorvault CJ, Hari AK, Soni S, Branstetter BF, Paisley KJ, Huang LF. Performance of CT in detection of bowel injury. AJR Am J Roentgenol. 2001 Jan;176(1):129-35.PMID: 11133551
3)Brody JM, Leighton DB, Murphy BL, Abbott GF, Vaccaro JP, Jagminas L, Cioffi WG. CT of blunt trauma bowel and mesenteric injury: typical findings and pitfalls in diagnosis. Radiographics. 2000 Nov-Dec;20(6):1525-36; discussion 1536-7. PMID: 11112806
4)Becker CD, Mentha G, Schmidlin F, Terrier F. Blunt abdominal trauma in adults: role of CT in the diagnosis and management of visceral injuries. Part 2: Gastrointestinal tract and retroperitoneal organs. Eur Radiol. 1998;8(5):772-80. Review. PMID: 9601964

上記4文献のまとめ.1:腸管壁の断裂像(bowel discontinuity),特異度(specificity)は高いが陽性率(sensitivity)は低い.2:遊離ガス(extraluminal air,pneumoperitoneum),陽性率は意外と低く50%前後.特異度は高いが,消化管穿孔以外の原因もあり慎重な臨床的判断を要する(後述).他の所見が複数加われば消化管穿孔の可能性は100%に近い.3:壁内ガス(intramural air),陽性率は低いが特異度は高いとの報告がある.4:経口的に投与した造影剤の腸管外漏出(extraluminal oral contrast material),特異度は最も高い(100%)が,陽性率は意外と低く(19〜42%),時間がかかる,麻痺性イレウスの症例が多い,誤嚥の可能性などから敬遠されつつある(後述).5:腸管壁肥厚(bowel wall thickening).直接打撲,腸間膜損傷による虚血または静脈還流障害によるものとされる.陽性率は70%前後.連続2スライス以上で3,4mm以上を壁肥厚とする文献が多いが,腸管の拡張度に影響を受けるのでそう単純ではない.「ある程度の内容物を含み(虚脱していない),厚さが4mm以上で,周囲の正常な腸管より明らかに壁肥厚を呈する」が適当な読影の仕方と思われる.壁肥厚だけの単独所見は特異度は高くなく,液貯留(腹水)や遊離ガス,腸間膜の濃度上昇があれば消化管穿孔の可能性は極めて高くなる.6:腸間膜の濃度上昇.infiltration(境界不鮮明な濃度上昇),stranding(steaking:スジ状の濃度上昇)などと呼ばれ,血腫,腸液あるいは炎症性の反応を反映するといわれる.70%前後に認めるが単独では特異度は低い.7:腸管壁の濃染(bowel wall enhancement).定義は「腸腰筋より濃度が高い,または周囲血管と同等な濃染」.特異度や陽性率,消化管穿孔の診断上の価値は不明.8:液貯留・腹水(unexplained free fluid:実質臓器損傷を認めないが液貯留・腹水がある).陽性率は高く特異度は低いが,小腸間や腸間膜間に存在するものは消化管穿孔や腸間膜損傷を示唆する.
  【参照症例】   1. 日本外傷学会 消化管損傷分類2008

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