外傷(Trauma)シリーズ2 EXPERT COURSE 解答 【症例 TE 6】

肝損傷IIIb,AAST grade IV






単純CT図7〜図9でわかるのは肝臓と脾臓周囲に腹水(※)があり,その腹水は図7の胃液より高濃度だから血性腹水であろうということだけである.肝損傷はまったく認識できない.45分後の造影CT(図4〜図6,図10〜図12)ではどうか.脾臓には損傷はなく,肝右葉に複雑な裂創を認め,肝と脾臓周囲の腹水(※)が増えており,extravasation(造影剤の血管外漏出:△)を認める.図5と図6の白矢印が仮性動脈瘤(pseudoaneurysm)かどうかはdouble phase造影CTでないと判断できない.図10〜図12の▲はpericaval halo signで,下大静脈周囲の血腫と言われ,下大静脈またはその近辺血管(肝静脈)の損傷の可能性を示唆する.肝右葉切除を行ったが,下大静脈周辺(おそらく肝静脈)から大量出血が続き,血圧低下と出血傾向を認めたのでガーゼパッキンし閉腹したが,出血は続き死亡した.図2,図5と図6の,胸腔内でニボーを形成している↑の詳細は不明.RHV:右肝静脈,MHV:中肝静脈,LHV:左肝静脈.脾損傷例ResidentコースTR1と同様に単純CTだけではいかに情報不足か認識していただきたい.






参考症例(肝損傷 II):32歳男性.一時的な意識消失発作で転倒し救急搬送された.血圧:100/58mmHg,脈拍:89/分.まもなくして腹痛を訴えた.腹部全体に軽度の圧痛を認めたが軟.








図1〜図4で大量の腹水(※)があるが,胃液より高濃度で,さらにやや高濃度の▲は凝血塊を示唆する所見で大量腹腔内出血である.出血量は,図3の肝周囲で250,脾臓周囲で300,図9のMorison窩で350,図14の傍結腸溝で400+300,図15の骨盤腔で14cm→700ml,合計2300mlとなる.図6〜図8で肝裂創(↑)を認め,図8〜図10の△は出血量を考慮してextravasationと判断すべきであろう.手術で右葉下面に1cm大の被膜損傷を認め活動性に出血しており,縫合止血した.出血量:2500ml.転倒した際に受けた外傷と思われた.








文献考察:dual(double)phase 造影CTを撮るもう一つの理由
グラフ 救急領域のCT画像 肝損傷(図説)
  Author:溝端康光(大阪府立泉州救命救急センター), 横田順一朗
  Source:外科治療(0433-2644)88巻3号 Page359-373(2003.03)
肝損傷における出血は,肝動脈の破綻による動脈性出血と,門脈や肝静脈の破綻による非動脈性出血があり,TAEで止血し得るのは動脈性出血のみである.そのため,主要な出血源が動脈性か非動脈性かを血管造影に先立って鑑別することができればより的確な初期治療を展開することが可能となる.門脈相撮影に先だって動脈相での撮影を追加したdual phase造影CTは両者を鑑別する可能性をもった撮影手法として注目される.extravasationが動脈相と門脈相両方に認められれば,肝損傷に伴う出血は動脈性と考えられる.一方,extravasationが動脈相では存在せず,門脈相で初めて描出されれば,出血は非動脈性であると判断することが可能である.

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