外傷(Trauma)シリーズ2 RESIDENT COURSE 解答 【症例 TR 10】

肝損傷IIIb,AAST grade IV








肝右葉に複雑型深在性の損傷があり,大量の腹水は出血を意味するものと考える.図5と図6の△,図8と図9の△は正常血管としては明らかに大きすぎ,辺縁不整だからextravasationであろうが,正確な診断にはdouble phase造影CTが必要である.損傷の深さは下大静脈(IVC)に達し,その周囲血腫を意味するpericaval halo sign(図4〜図8:↑)を認め,下大静脈または肝静脈損傷の合併の可能性を示唆する.出血量は,図3の肝内血腫は6×10cm×10スライス(7.5mmスライスのCTだから12スライス数を10mmスライスに換算して10スライス数とする)=600,半分は肝実質を描出しているとして300,図4で肝周囲に150,図7で脾臓周囲に300,図15で左右傍結腸溝に400+400で800,骨盤腔内には16cmだから800,合計で2350mlとなる.図12でIVCは扁平化しているとは言えないが,大動脈(A)は大きさが約1cmに縮小し楕円形となっており,重度の循環血液量不足と解釈すべきである.5000mlの大量輸液と輸血を行いながら血管造影を施行した.図Aでextravasation(▲)を認めたのでスポンゼルで塞栓術を施行した.脾臓・肝臓損傷による出血のmanagementを下段に再掲載したが,ショック状態で,スクリーニングの腹部エコー検査で腹水を認め,初期輸液(2000ml)でショックを離脱できなければCT検査は不要で,また血管造影の適応もなく,むしろ両方とも禁忌であり,即刻手術室へ搬送すべきである.

脾・肝損傷出血のmanagement.1:スクリーニングは腹部エコー検査(FAST:Focused Assessment with Sonography for Trauma).心タンポナーデの有無,胸水の有無,左右横隔膜下,Morison窩,骨盤腔内の液貯留の有無を見る.来院時収縮期血圧が90mmHg以下で,腹腔内出血や胸腔内出血を認め,初期輸液(2000ml)で安定するrespondersはCT等の検索へ,一過性の安定が得られるtransient respondersは輸液を続行しながら手術やTAEを考慮し,安定しないnon-respondersは直ちに手術室へ搬送する.2:血圧が安定している,または上記respondersはCT検査を行う.造影CTは必須であるが,extravasationの検出率を高めるため,extravasationとpseudoaneurysmとの鑑別を容易にするためdouble phase造影CTが望ましい.3:造影CTでextravasationを認める,または推定腹腔内出血量が1000ml以上であれば塞栓術を目的に血管造影を,すぐに血管造影が出来ない施設では手術の適応である.








参考症例(肝損傷 IIIb):74歳女性.軽自動車の助手席に乗車していて衝突事故,腹痛を訴え救急搬送された.血圧:104/50mmHg,脈拍:107/分.腹部全体に圧痛がある.








肝右葉の裂創とその周囲にextravasation(△)を認めるので大量の腹水は血液であろう.図6でほぼ扁平化したIVCはhypovolemiaを意味し,肝臓からの出血をさらに裏付ける.出血量は,図2の目盛りの部位が肝周囲の液貯留の平均的な部位として300,図5の脾臓周囲は150,図8のMorison窩で100,図14の左側傍結腸溝で150,右側傍結腸溝で300,小腸間に200,図16の骨盤腔で100,合計1300mlとなる.輸液を3000ml以上投与したにもかかわらず血圧不安定となり,血管造影を行わず手術となった.開腹したら約1500mlの出血量を認め,動脈性の大きな出血だけを止血し,ガーゼパッキングによるdamage control surgery(後述)を行い治療に成功した.









拡大画像を見る
文献考察:肝損傷保存的治療後の生活指導
Adv Surg. 2001;35:39-59.
The current management of hepatic trauma.
Carrillo EH, Richardson JD.

AAST grade I〜IIIは普通生活は4〜6週で,激しいスポーツは6〜12週で開始していい.gradeIVとVは普通生活を4〜6 週で,激しいスポーツは12週以後に開始していい.

 【 ←前の問題 】  【 このシリーズの問題一覧に戻る 】 【 演習問題一覧に戻る 】