その他(Miscellaneous)シリーズ10 EXPERT COURSE 解答 【症例 ME 46】

胃潰瘍出血.Bleeding gastric ulcer






膵頭部十二指腸切除後だから経鼻胃管やステントが挿入されている.単純CT図4〜図6,図10と図11の胃内の※は,食事摂取をしていないし,densityが高く血腫である.造影CTの図1〜図7の△はextravasationで,最も量が多くdensityの高い図7が出血部位(食道胃接合部近辺)と推測する.内視鏡検査で食道胃接合部直下の急性胃潰瘍から活動性の動脈性出血を認め(図A),HSE(高張生食水+エピネフリン)注入で止血に成功した.吐血の診断治療での第一選択は止血操作もできる内視鏡検査である.何らかの理由ですぐには内視鏡検査ができない,血腫が充満して出血部位が不明な場合に造影CT検査(double phaseが望ましい)を行えばかなりの情報が得られる.






参考症例1(胃潰瘍):精神発達遅滞のある52歳男性.数日前からタール便があり,顔面蒼白を指摘されて来院した.Hb:5.5g/dl.
▲は粘膜下浮腫による壁肥厚を示し,図4〜図6の△は胃角部(図4)から後壁(図5と図6)に伸展する急性潰瘍性病変である.従って,タール便と貧血の原因は胃潰瘍であろう.胃カメラで同所見が確認された(図A:↑).








参考症例2(胃潰瘍):63歳男性.1週間前に上腹部痛が出現し,当日に鮮血性の吐血が3回あり来院した.Vital signは安定している.Hb:8.9g/dl.
粘膜下浮腫による壁肥厚(▲)を認め,△は急性潰瘍性病変を示している.Extravasationは認めない.図6で潰瘍(△)は膵臓に穿通している可能性が高い.内視鏡検査で胃角部から後壁へ広がる大きな潰瘍に凝血塊が付着していた(図A:↑).








文献考察:出血性胃潰瘍のCT
1)Gastric ulcer bleeding: diagnosis by computed tomography.
Voloudaki A, Tsagaraki K, Mouzas J, Gourtsoyiannis N.
Eur J Radiol. 1999 Jun;30(3):245-7.

A case of CT demonstration of a bleeding gastric ulcer is presented, in a patient with confusing clinical manifestations. Abdominal CT was performed without oral contrast medium administration, and showed extravasation of intravenous contrast into a gastric lumen distended with material of mixed attenuation. It is postulated that if radiopaque oral contrast had been given, peptic ulcer bleeding would probably have been masked. CT demonstration of gastric ulcer bleeding, may be of value in cases of differential diagnostic dilemmas. PMID: 10452725

2)【救急マニュアル2004】 症候・症状からの救急対応 吐血
  Author:杉野達也(兵庫県立西宮病院 救急医療センター)
  Source:綜合臨床(0371-1900)53巻Suppl. Page949-952(2004.04)
要旨:一般に吐血(hematemesis)とは,上部消化管出血に伴って血液を嘔吐することを意味するが,その出血源はTreitz靱帯より口側,すなわち食道,胃と十二指腸に存在すると考えてよい.血液がいったん胃内に貯留した場合は,胃酸の作用で黒色の塩酸ヘマチンに変化するため,吐物は暗茶褐色のコーヒー残渣様となる.食道病変から胃を介さず吐出する場合や,胃病変でも胃内の停滞時間が短い大量持続性出血では,血液そのものの赤い色を呈する.原因疾患は胃十二指腸潰瘍が最も頻度が高く,食道胃静脈瘤,Mallory-Weiss症候群,急性出血性胃炎などがある.診断治療のピットフォールとして,1:「肝硬変=食道静脈瘤」と考えないこと.肝硬変患者の吐血といえば即,食道静脈瘤破裂と考えがちであるが,その比率は50%前後である.2:「見かけ上の吐血」,鼻出血,顔面外傷や頭蓋底骨折などではいったん嚥下した血液を吐くことがある.3:「他の原因によるショック」,心原性ショックに伴う急性胃粘膜病変から少量の出血が生じる症例は決して珍しくない.診断を誤ると「心不全に急速大量輸液」というミスにつながるので十分注意したい.

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