その他(Miscellaneous)シリーズ1 RESIDENT COURSE 解答 【症例 MR 1】

上行結腸憩室出血.Bleeding ascending colon diverticulosis




図2で大動脈の内腔と左腎皮質は造影され,下大静脈(IVC)と腎髄質は造影されていないので動脈相の造影CTである.IVCは平坦ではないが大動脈に比べ狭小化しており,循環血液量がかなり不足した状態である.大量下血例では出血部位から直腸内の糞便は血液の下剤作用により下血と共に排出されるので,CTで結腸内容物の性状から出血部位の推測が多くの例で可能である.単純CT図9〜図12の上行結腸の内容物(※)は,均一で,ややdensityが高く,泡沫状のガスを含まないから血腫の可能性が高く,小腸または右側結腸が出血源であることを示唆する.図5と図6の↑は,造影剤を投与する前の単純CT図9と図10でも全く同様に描出されている(▲)ので憩室内の糞石である.図2と図3の↑もそうであろう.造影CT図3〜図8,図13と図14で上行結腸内の△は血腫の周囲に溜まった造影剤で,今現に動脈性の出血が起こっていることを意味するextravasation(造影剤の血管外漏出)であり,上行結腸憩室出血の診断が可能である.緊急大腸ファイバー検査を行ったら,上行結腸の憩室の1つに動脈性の出血を認め,クリッピングで止血した.











参考症例(上行結腸憩室出血):51歳男性.数時間前から赤ワイン様の下血が数回あり,ふらふら感を自覚し始めたので救急搬送された.血圧:142/85mmHg,脈拍:72/分.直腸診で暗赤色の血便を認めた.Hb:13.2g/dl.
単純CTで右側結腸内に普通便を認めず,血腫または血液を含むと思われ,小腸(TI:回腸末端)は虚脱しているので右側結腸からの出血を示唆する.憩室(造影CT:↑,単純CT:▲)を認め,図2〜図4と,図9〜図11の造影CTでextravasation(△)を認め,上行結腸憩室の出血と診断できる.血管造影で回盲腸動脈からのextravasation(図A:△)を認め,コイル(図B:白矢印)を塞栓し止血に成功した.最終Hbは8.2g/dlで,輸血なしで退院した.



















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文献考察:下血
【救急マニュアル2004】 症候・症状からの救急対応 下血
Author:福永睦(堺市立堺病院 外科), 古河洋
Source:綜合臨床(0371-1900)53巻Suppl. Page953-956(2004.04)

要旨下血(melena)とは,語源的には肛門より排出される黒色便を指すが,一般臨床の場では肉眼的に明らかなタール便(tarry stool)血便(bloody stool)鮮血便(hematochezia)などの総称として用いられることが多い.下血(melena)の70%以上が上部消化管由来といわれる.上部消化管出血に比べショックになる頻度は低いが,診療中に病状が進行することもあり,止血術が施行されるまでは急変に対応できるようにしておく必要がある.ショックの5p(蒼白.pallor,冷汗.perspiration,脈拍触知不能.pulselessness,虚脱.prostration,呼吸不全.pulmonary deficiency)や,ショック指数shock index:脈拍数÷収縮期血圧,0.5が正常,1.0が軽症,1.5が中等症,2.0が重症)などからショックが疑われる場合には,最優先で全身状態の改善に努めなければならない.表1に下血を呈する下部消化管疾患と臨床的特徴を記載した.

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