上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ18 EXPERT COURSE 解答 【症例 EE 86】

胃石イレウス.small bowel obstruction with a bezoar








図1は省略.図12〜図15の△は気泡と食物残渣の混合物で,小腸内に存在する場合“小腸内糞便(small bowel feces)”と呼ばれるもので,小腸閉塞の閉塞部を示唆することが多い.すなわち,図14の1〜図3の12へと頭側へ拡張する小腸があり,他方図12〜図9のSB,虚脱した小腸へとつながり小腸内糞便△が閉塞部位である.小腸内糞便から虚脱した小腸の移行部には腫瘍性病変,腸重積や外部病変からの圧排を認めないので,閉塞の原因は,胃切除の既往があることから癒着によるものか胃石の可能性が高い.図1と図2の拡張した胃内にも小腸内糞便と同様な円形の内容物(▲)を認めるので胃石を強く疑う.イレウスチューブを挿入したが1週間経っても腸閉塞の改善がみられないため手術を施行した.小腸内に2個の固形物(図A)を認めた.図Aの△が摘出された図12〜図15の△で、▲は図1と図2の胃内に存在していた胃石で,手術時には小腸内へ落下していた.図Bは閉塞部位の△の切断面.結石成分分析でタンニン98%以上と報告され柿胃石であった.S:S状結腸.








参考症例(Plain CT,柿胃石による小腸閉塞):76歳女性.腹部手術の既往はない.腹痛と嘔吐のため他院に入院,イレウスチューブを挿入し経過観察されていたが腹痛が持続したため転院した.イレウスチューブが挿入されているので拡張した小腸はないが,図4〜図11の↑は小腸内糞便様の構造物で,胃内にも同様なものが描出されている(図1:▲).胃内視鏡検査で胃石と判明し(図A:△),図4〜図11の↑も落下した胃石,しかも8スライスにまたがるので複数の胃石の可能性がある.手術で胃内に1個,回腸内に2個の胃石を認め摘出した.胃石の成分分析:タンニンと思われる物質(柿胃石).













文献考察1):胃石(bezoar:表1)
消化管症候群 胃石
  Author:米田政志(旭川医科大学 第2内科), 牧野勲
  Source:日本臨床(0047-1852)別冊領域別症候群5 Page448-450(1994.11)
要旨:胃石(bezoar)とは胃内にて食物や毛髪などが胃液の作用により不溶性の結石を形成したものであり、植物胃石phytobezoar(我が国では柿胃石diospyrobezoarが圧倒的に多く70%を占める)、毛髪胃石trichobezoar、毛髪植物胃石phytotrichobezoarなどがある(表1).柿胃石は、柿の中に高濃度に含まれる可溶性のタンニン酸(シブオール)が胃酸と接触して「重合」し、果実繊維や食物繊維と結合し複合体を形成することが原因といわれ、短時間に形成されるという.最も多い植物胃石phytobezoarの約75%は胃切後の患者である.胃切後に胃石を形成しやすい理由は、幽門括約筋作用の消失による不十分な食物の混合、塩酸やペブシン分泌低下による消化作用の低下、胃運動の低下による食物の停滞などがいわれる.

文献考察2):残胃胃石による小腸閉塞,本邦集計49例(表2)
残胃胃石による小腸イレウスの1例
  Author:山口淳平(中京病院(社保) 外科), 弥政晋輔, 水野敬輔, 三宅秀夫, 岩瀬祐司, 千田嘉毅, 雨宮剛, 鈴木和志, 松田眞佐男
  Source:日本腹部救急医学会雑誌(1340-2242)22巻6号 Page985-989(2002.09)
  Abstract:64歳男.約1ヵ月前,上腹部痛・嘔吐を主訴に受診した.57歳時に胃癌のため,胃切除術を受けており,癒着性イレウスと診断し,保存的治療で軽快した.しかし,その後,再び腹痛が出現した.内視鏡検査では,胃石の吻合部嵌頓を認めた.各種鉗子で胃石の一部を破砕し,十二指腸内に排出させたが,その後もイレウスは改善せず,第15病日に空腸に嵌頓した胃石を手術的に摘出した.胃石による腸閉塞は内視鏡治療が第一選択であるが,腸閉塞を合併すると保存的治療が奏効せず外科的切除が必要になることがほとんどであり,診断がつき次第,積極的な手術を行うことが重要であると思われた.

文献考察3):本邦集計14例(表3)中42.9%に2個以上の胃石を認め,2例に再手術を要した
再手術を要した2個の柿胃石による小腸イレウスの1例
  Author:月岡雄治(浅ノ川総合病院), 矢ヶ崎亮, 中野達夫, 上野桂一, 佐久間寛
  Source:臨床外科(0386-9857)57巻5号 Page706-709(2002.05)
  Abstract:61歳男.柿が好物で約1ヵ月前から毎日4〜5個食べていた.法事に出席して精進料理を食べ帰宅し,腹痛,嘔吐が出現し,受診した.画像診断などから胃石を強く疑った.発症前日に山菜やきのこをたくさん食べていた,腫瘤の境界が明瞭なことと,1ヵ月前から柿をたくさん食べていたことより柿胃石による小腸イレウスと診断した.下腹部正中小切開で開腹し,異物の肛門側の健常小腸を1cm切開して,異物を砕きながら取り出し,創閉鎖を行った.摘出標本の成分分析でタンニンが98%以上あり,柿胃石と診断した.術後3日目に全粥を全量摂取後に嘔吐をきたし,腹部X線写真より再度イレウスと診断した.癒着性イレウスを疑い,イレウス管を挿入し,イレウス管造影,超音波検査を行ったところ,前回と同様の閉塞像を認め,2個目の柿胃石によるイレウスと診断した.胃石が複数個存在する可能性を考え,下腹部正中切開で小腸全体の観察を行った.胃石は1個のみであり,摘出を行った.

文献考察4):13%が再発した.胃と中枢側小腸もしっかり検索すべき
Br J Surg. 1994 Jul;81(7):1000-1.
Gastrointestinal bezoars.
Robles R, Parrilla P, Escamilla C, Lujan JA, Torralba JA, Liron R, Moreno A.

Of 99 patients with 117 gastrointestinal bezoars, 69 had undergone previous surgery, the most common operation being bilateral truncal vagotomy with pyloroplasty (55 patients). An excessive intake of vegetable fibre was found in 38 patients and poor mastication in 27. Thirty bezoars presented with gastric symptoms and patients had endoscopy as the diagnostic technique; 87 caused symptoms of intestinal obstruction with the diagnosis made by plain abdominal radiography. Medical treatment by enzymic or endoscopic fragmentation was used for 17 of 30 gastric bezoars; surgery was required in the remainder. Intestinal bezoars causing obstruction can be fragmented and 'milked' to the caecum. The stomach should be explored for associated gastric bezoars.PMID: 7922045

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  【参照症例】   1. 腹部全体痛シリーズ(Generalized Abdominal Pain)6 【症例 GE 28】

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