文献考察:上腸間膜動脈塞栓症の治療方針・術前,術中と術後にSMAから塩酸パパベリンの持続注入を
Kaleya RN, Boley SJ. Acute mesenteric ischemia.Crit Care Clin. 1995 Apr;11(2):479-512. Review. PMID: 7788542
治療方針の基盤は次の4つの観察所見に基づく.1.腸管壊死に陥る以前に診断治療しないと死亡率は70〜90%である.2.閉塞性も非閉塞性も血管造影で診断できる.3.腸間膜動脈閉塞部より末梢で血管の攣縮が起こり,それが腸管梗塞を助長し,また血管攣縮は血栓や塞栓除去後も続くものである.4.その血管攣縮はSMAへ血管拡張剤注入で解除できる.従って上腸間膜動脈塞栓症を疑えば診断上,治療上も腹部血管造影は全例に適応である.
全身状態の悪い例が多いのでSwan-Ganzカテーテルを挿入し,循環系の最大限の補助治療を必要とする.動脈閉塞の診断がつき手術の決定が為されてもSMAのカテーテルは留置し,まず即効性のα-blocker,tolazoline25mgを注入し,その後塩酸パパベリンを30〜60mg/hで術前から持続注入を開始する.血管拡張剤を投与しても壊死に陥った腸管がviableになることはないが,壊死前の虚血状態の腸管の血流改善が期待できる.血管攣縮は術後も続くので術後24〜48時間は持続注入を続け,血管造影で攣縮がない,腸管への血流が良好であることを確認してカテーテルを抜去する.塩酸パパベリンは90%以上が肝臓で分解されるので全身的な影響はほとんどないが,カテーテルがSMAから抜けて全身投与となり血圧低下をきたせば逆効果となるので,定時的に腹部レントゲンでカテーテルの位置を確認する必要がある.
65例を治療し,生存率は55%と以前の2倍になったのみならず,生存者の腸管切除の長さはほとんどが100cm以下であった.腹膜刺激症状のない時期に診断できた症例の生存率は90%であった.
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