腸閉塞・イレウス特集(obstruction+ileus)1 EXPERT COURSE 解答 【症例 ILE 1】

絞扼性小腸閉塞(捻転:壊死なし).Strangulated obstruction of small bowel with no necrosis












最下段の図25〜図27で上行結腸(Ac)が虚脱しているので拡張した小腸は機械的閉塞である.大部分がgaslessで,骨盤腔に腹水(図28と図29:※)があり,図13〜図16で腸間膜の濃度上昇(▲)を認めるので絞扼性の可能性が高い.図4のAと1から追跡を始めると,Aは図19のPで閉塞する.1は図17の81まで行くが,図20と図21で虚脱した小腸(SB)の存在を考慮すると図19の79の↑が閉塞部位であり,closed loopを形成していることが証明された.図21の丸数字1〜図27の丸数字7が口側の単純性閉塞小腸である.翌朝のカンファレンスでCTの再点検が行われ,正確に診断され手術となった.絞扼された小腸壁の造影効果はやや減弱しているように見えるが,手術では約150cmの小腸が180度捻転し,浮腫と虚血による発赤(図A:△が絞扼部位)を認めたが,viableと判断し切除は行わず,術後は順調に経過した.捻転例だがCTでwhirl signは認めない.


















絞扼性小腸閉塞の病態生理:(Bockus Gastroenterology 5th ed. Edited by WS Haubrich, F Schaffner, JE Berk. Philadelphia, WB Saunders, 1995)から.
開腹手術後または腹膜炎治癒後腹腔内には多数の索状物(band;上図)が形成される.大腿ヘルニアや閉鎖孔ヘルニア嵌頓例から理解できるように小指の先ほどの隙間でもあれば,そこへ虚脱した小腸が入り込み嵌頓を起こす(図A).索状物による締め付けが始まると以下の現象が起こる.
 1)小腸は24時間で7,8Lの腸液を分泌し,10L(小腸液+胆汁,膵液,胃液,飲み込んだ唾液,の95%)を吸収するが,虚血状態になると吸収機能が停止し,分泌は継続または増加する→腸液で拡張し,gasless(CT画像の断面の半分以下とした方が絞扼性の診断に有用)の閉鎖ループ(closed loop:腸管のloopが隣接する2点で締め付けられている状態で,近くに虚脱した2つの小腸,または虚脱した1つの小腸と単純閉塞の小腸の始点がある:図B)を形成する→虚脱した小腸を引っ張り込んで.closed loopが延長する.
 2)血圧の差により閉塞部位で静脈だけ閉塞し動脈は開存している時間があることと,腸管内圧上昇による毛細血管への圧迫から,血流の停滞を起こすため腸間膜の浮腫が生じ,そこから水分が漏出し腹水が生じる.
 3)腸液が停滞すると細菌が急激に増殖する(単純性閉塞でも内容物はかなり汚染されていることに注意)ので,ガス産性菌が存在するとある程度のガスが発生する.
 単純性閉塞では飲み込んだ空気によりgaslessではないことが多く,さらに静脈の循環障害は起こりにくいので,腸間膜の濃度上昇と腹水は発生しない場合が多い.
 従って,gaslessで腸間膜の濃度上昇と腹水があれば絞扼性小腸閉塞を疑うべきである.
  【参照症例】   1. 上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ4 【症例 EE 17,18】

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