外傷(Trauma)シリーズ20 RESIDENT COURSE 解答 【症例 TR 97】

杙創(ヨクソウ:直腸損傷).Impalement injury of rectum






図18の1から逆行性に直腸を追跡すると数字順に展開する.図4〜図7で後腹膜腔に低濃度の液貯留(▲)を,図5〜図17ではやや高濃度の血腫(※)を認める.図12〜図18で血腫内外に遊離ガス(↑)を認め,直腸損傷と診断できた.図10の△は図9のS状結腸(17)と重なるので遊離ガスではなく,S状結腸内ガスと解釈すべきである.開腹手術で直腸穿孔が確認され,閉鎖し,杙創路にドレーンを挿入した.









参考症例(竹による杙創:直腸膀胱損傷):47歳男性.工事現場の2階足場より転落し,竹が肛門に突き刺さった.直腸診で血液を認め,陰茎亀頭には血液が付着していた.尿道膀胱造影(図A)および直腸造影(図B)後CT検査が行われた.
図Aで膀胱内に大量の血腫を認め,↑は膀胱外へ漏出した造影剤の可能性がある.図Bで↑は直腸外へ漏出した造影剤であり,直腸穿孔の診断がつく.






直腸からS状結腸は図12の1〜図1の12と展開するから,図3〜図12の△は直腸外・膀胱外へ漏出した造影剤であり,膀胱内には血腫(図3〜図8:▲)を認める.S:S状結腸,D:下行結腸.手術で直腸穿孔を認め単純閉鎖した.膀胱損傷は確認できなかったが,腹腔内への尿漏を認めないので膀胱左側にドレーンを挿入し,術後は順調に経過した.









文献考察1):杙創(ヨクソウ:impalement injury)
当麻美樹:3.杙創.実践外傷初療学(編著:石原晋),p:321-324,2001,永井書店

要旨:杙創(よくそう:impalement injury)とは. 「鈍的な先端を持つ物体が偶発的機転により身体を貫通することにより生じた穿通創」と定義され, 通常の外力では刺入されないような,先端が鈍な異物が高所墜落や交通外傷などの際に加わった強大な外力により生体に突き刺さった状態となる. 古典的には, 杭などが会陰部や肛門より体内に刺入された損傷を指すが, 実際に遭遇する杙創では, 鉄筋や鉄棒が会陰部に限らず胸腹部,背部,頭部顔面を貫通することが多い.

文献考察2):本邦集計90例の検討
杙創による直腸膀胱損傷の1例
Author:原真也(高知赤十字病院 外科), 松岡永, 大西一久, 谷田信行, 藤島則明, 浜口伸正
Source:手術(0037-4423)60巻10号 Page1641-1644(2006.09)

Abstract:13歳男。ブランコから飛び降りた際に地面から突き出ていた竹が会陰部に刺入し、竹を自己抜去して来院した。下腹部に軽度の圧痛を認めたが、腹膜刺激症状や筋性防御はなかった。入院時の腹部CTには異常は認められなかったが、翌日の再検査にて膀胱内にfree airを認め、直腸膀胱損傷を疑った。大腸内視鏡検査にて肛門右側に裂傷を認め、竹が肛門から直接的に刺入したことが判明し、直腸Rb前壁に穿孔部を認め、内視鏡による送気で尿道バルーンから空気の漏出を認め、直腸膀胱瘻と診断した。杙創による直腸膀胱損傷であり、緊急手術を行った。手術所見から、竹は肛門から直腸を経て膀胱内に刺入したが、腹腔内には到達していないことが確認できた。術後経過は良好で、第29病日に人工肛門のまま退院し、3ヵ月後に人工肛門を閉鎖し、その13日後に退院し、完治となった。13歳の若年者であったため、人工肛門に対する精神的援助を必要とした。

追記:本邦集計90例の検討で,受傷機転は高所墜落48.9%,転倒・尻もち18.9%,誤って腰かける6.7%,自動車事故4.4%,.受傷部位は肛門周囲など会陰部が最も多く78.9%を占めた.直腸損傷を高率に認め,直腸膀胱合併損傷もまれではない.1)軟部組織の挫滅を伴う,2)陥入物体が異物として,または衣服の断片が存在する可能性がある,3)損傷が広範囲で感染の頻度が高い,などの特徴がある.

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