外傷(Trauma)シリーズ16 RESIDENT COURSE 解答 【症例 TR 76】

腹部大動脈刺創・仮性動脈瘤.Stab wound of aorta with pseudoaneurysm




十二指腸背側の後腹膜腔に大量の液貯留(※)を認める.図3の胆汁より高濃度で,図2でIVCが虚脱しているので血腫であろう.図10と図11の▲は早期相の図6と図7の△と比較して大きさと形態が変化していないのでextravasationではなく腹部大動脈の仮性動脈瘤であり,現在は活動性の出血はない.Double phase 造影CTだからこそその判断が可能である.図6と図10の腹壁断裂(↑)が刺創であろう.手術で腎動脈から3cm尾側に,大動脈右側壁から後壁にかけて1/3周の損傷と仮性動脈瘤を認め,人工血管置換術を施行した.腹腔内臓器には損傷を認めなかった.








鋭的腹部損傷のmanagement(症例TE35の解説を再掲)
 手術適応.1:初期治療で輸液2000ml以上を投与しても血圧不安定,または持続する出血,2:腹膜炎(刺創部から離れた部位で腹膜刺激症状),3:血便または直腸診で肉眼的に血液を証明,4:吐血またはNGチューブから血性の排液,5:刺さったままの凶器が腹腔内に達する,または腹腔内に残存した凶器,6:環納不可能な脱出した腸管.
 手術適応がなければ造影CT(できればdouble phase)検査を行う.→7:腸間膜からのextravasation(実質臓器,後腹膜や骨盤腔内はTAE),8:消化管穿孔(下記:TR11の解答欄から再掲),9:横隔膜損傷(TR51).
 造影CTで手術適応の所見はないが腹部臓器損傷を完全に否定できない(遊離ガスだけ,液貯留だけ,腸管壁肥厚と液貯留,腸間膜の濃度上昇)場合,4〜6時間後に造影CTを再検する(Triple-contrast CTも考慮する:TE34の文献参照).

消化管穿孔のCT所見.1:腸管壁の断裂像(bowel discontinuity),特異度(specificity)は高いが陽性率(sensitivity)は低い.2:遊離ガス(extraluminal air,pneumoperitoneum),陽性率は意外と低く50%前後.特異度は高いが,消化管穿孔以外の原因もあり慎重な臨床的判断を要する.他の所見が複数加われば消化管穿孔の可能性は100%に近い.3:壁内ガス(intramural air),陽性率は低いが特異度は高いとの報告がある.4:経口的に投与した造影剤の腸管外漏出(extraluminal oral contrast material),または腸管内容物の腸管外漏出.特異度は最も高い(100%)が,陽性率は意外と低く(19〜42%),時間がかかる,麻痺性イレウスの症例が多い,誤嚥の可能性などから敬遠されつつある.5:腸管壁肥厚(bowel wall thickening).直接打撲,腸間膜損傷による虚血または静脈還流障害によるものとされる.陽性率は70%前後.連続2スライス以上で3,4mm以上を壁肥厚とする文献が多いが,腸管の拡張度に影響を受けるのでそう単純ではない.「ある程度の内容物を含み(虚脱していない),厚さが4mm以上で,周囲の正常な腸管より明らかに壁肥厚を呈する」が適当な読影の仕方と思われる.壁肥厚だけの単独所見は特異度は高くなく,液貯留(腹水)や遊離ガス,腸間膜の濃度上昇があれば消化管穿孔の可能性は極めて高くなる.6:腸間膜の濃度上昇.infiltration(境界不鮮明な濃度上昇),stranding(steaking:スジ状の濃度上昇)などと呼ばれ,血腫,腸液あるいは炎症性の反応を反映するといわれる.70%前後に認めるが単独では特異度は低い.7:腸管壁の濃染(bowel wall enhancement).定義は「腸腰筋より濃度が高い,または周囲血管と同等な濃染」.特異度や陽性率,消化管穿孔の診断上の価値は不明.8:液貯留・腹水(unexplained free fluid:実質臓器損傷を認めないが液貯留・腹水がある).陽性率は高く特異度は低いが,小腸間や腸間膜間に存在するものは消化管穿孔や腸間膜損傷を示唆する.
  【参照症例】   1. 外傷(Trauma)シリーズ7 【症例 TR 33】

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