外傷(Trauma)シリーズ14 EXPERT COURSE 解答 【症例 TE 66】

肝損傷 IIIb.Liver injury grade IV.








図2〜図5で肝周囲(白矢印)に,図4〜図13で胃背側(※)に,図10〜図14でMorison窩(白矢印)に腹水と血腫を認めるが,図15の中腹部と図16の骨盤腔に腹水がない,図9のIVCは虚脱していないので1000mlを超える大量出血ではない.図1〜図4の↑は肝損傷を示しているものと思われるが明白なextravasationを認めないので一見軽症の肝損傷と思われた.しかし,5000mlの輸液量にもかかわらず血圧は80〜90mmHg台,脈拍は100以上のままなので血管造影を施行した.図Aと図Bでextravasation(△)を認めたので塞栓した(図C:▲).











しかしTAE後も腹部膨満が進行し,血圧が上昇しない,さらにacidosisを示したのでCTの再検査を行った(TAE後2時間目,下段図17〜図28).肝損傷(↑),extravasation(△)と大量出血が明白になり手術となった.肝門部とS4に大きな裂創と活動性の出血を認め止血を試みたが,明らかな出血傾向を認めたのでガーゼ充填によるDamage control surgeryを行い閉腹した.2日後ガーゼ除去を行ったが,DICと多臓器不全で死亡した.反省点:1)2000ml以上の輸液でも血圧不安定例でCT検査と血管造影の適応はなく,即手術すべきである.2)double phase造影CTを撮っておれば正確な診断がなされてもっと迅速な対応ができた可能性が高い.













拡大画像を見る

拡大画像を見る
文献考察:Damage control surgery
1)Crit Care Clin. 2004 Jan;20(1):101-18.
Damage control surgery.
Schreiber MA.

Damage control is a staged approach to severely injured patients predicated on treatment priorities. Initially, life-threatening injuries are addressed expediently, and procedures are truncated. Normal physiology is restored in the ICU, and patients subsequently are returned to the operating room for definitive management. This strategy breaks the bloody vicious cycle and results in improved outcomes. Novel technologies like CAVR and rFVIIa contribute to the effectiveness of damage control.PMID: 14979332
要旨:大量出血例で手術中に代謝性アシドーシス,低体温,凝固異常が発症すると予後は極めて不良で,外傷死の3徴(deadly triad)と呼ばれる.この生理的疲弊状態に陥ったときに,定型的手術を回避して,可及的早期にしかも最も簡便な方法で止血術を終了し,汚染を防ぎ,手術の完成を二期的手術にゆだねる治療戦略であり,三段階に分けて行われる場合が多い.1)一期手術:3徴の一所見でも出現したら大きな動脈性出血だけを止血し,静脈性の出血はガーゼパッキングし,腸管破裂は汚染を防ぐだけの処置(腸管吻合は二期手術で)を行いすばやく閉腹しICUへ移動する.2)ICUで代謝性アシドーシス,低体温,出血傾向を集中治療し正常になった時点で,3)二期手術(修復・再建の完遂と見逃し損傷の再検索)を行う.

2)【Damage Control Surgeryの適応と意義】 重症型肝損傷におけるDamage Control Surgeryの適応条件と治療成績について
Author:葛西猛(亀田総合病院救命救急センター), 貫和奈央, 田中研三, 弥永真之, 葛西嘉亮, 三沢尚弘, 佐藤康次, 大橋正樹, 不動寺純明
Source:日本腹部救急医学会雑誌(1340-2242)25巻7号 Page893-897(2005.11)

Abstract:外傷外科における新しい治療戦略の一つであるDamage Control Surgery(DCS)を選択する生理学的適応基準はいまだ確立されていない.著者らは1995年に重症型肝損傷に対して肝切除を施行した42症例を対象として50%予測死亡率からDCS選択の新基準を設定した(深部体温17sec).新基準がDCSの生理学的術式選択基準として妥当な指標であるか否かについて検討した.新基準設定前(1985〜1995)のDCSの生存率22.2%に対して,設定後(1996〜2004)の生存率は60%と生存率は有意に向上した(p
3)【Damage Control Surgeryの適応と意義】 重症肝損傷におけるDamage Control Surgery 非切除手術を中心に(生理学的指標は表1)

Author:中村達也(奈良県立医科大学附属高度救命救急センター), 畑倫明, 瓜園泰之, 關匡彦, 奥地一夫
Source:日本腹部救急医学会雑誌(1340-2242)25巻7号 Page899-904(2005.11)

Abstract:重症肝損傷(AAST-OIS grade IV and V,日本外傷学会肝損傷分類IIIb型およびIIIb型に傍肝静脈損傷の合併)に対し肝周囲gauze packingによる止血のみを行う一期手術と損傷部分をそのまま温存し止血の確認と損傷部分の閉鎖のみを行う二期手術により,2003年8月より連続6例全例を救命し社会復帰をなし得た.この手術術式と術後合併症を示す.Gauze packingは主に肝右葉損傷に対するばかりでなく傍肝静脈損傷に対する止血にも有効である.術後胆汁腫を全例に認めたが4例は縮小消失し,2例は感染性胆汁腫となり待期的肝右葉切除を施行.本術式は卓越した技術を持つ限られた外科医だけでなく,その場に直面した多くの救急医が同様の結果を導き出すことを目標としている(著者抄録).

4)【Damage control surgery】  Damage controlの術式とその後の治療(生理学的指標は表2)
Author:中谷壽男(関西医科大学 救急医)
Source:救急医学(0385-8162)26巻6号 Page625-630(2002.06)
  【参照症例】   1. 外傷(Trauma)シリーズ2 【症例 TE 6】

 【 次の問題→ 】  【 このシリーズの問題一覧に戻る 】 【 演習問題一覧に戻る 】