外傷(Trauma)シリーズ1 EXPERT COURSE 解答 【症例 TE 5】

脾損傷IIIc.spleen injury scale grade III








来院時血圧は70台だが脈拍は64/分と頻脈はなく,腎静脈が合流した部位より頭側のIVC(図12,図16)が虚脱していないことから,血圧低下の原因は循環血液量減少性ショック(hypovolemic shock)ではなく,神経原性ショック(neurogenic shock)の要素が強いと評価すべきである.脾臓損傷がありその周囲に腹水がある.Early(早期相)とdelayed(晩期相)のdouble phase造影CTだからextravasationとpseudoaneurysmの鑑別が可能である.extravasation の造影剤はdelayed phaseで多くの場合周囲の血液により希釈され淡くなり,さらに拡散して大きくなり形が変化するが,pseudoaneurysmは大きさと形が変化しない.早期相の図3と図4の↑は晩期相の図7と図8の白矢印と大きさと形が類似しており,pseudoaneurysmの可能性が高い.図6〜図18で早期相の△は晩期相(▲)で拡散し大きくなり形が変化しているのでextravasationである.血管造影でpseudoaneurysm(図Aと図B:白矢印)とextravasation(図Aと図B:↑)を認め,塞栓術を行い,塞栓術後CT(図C)でextravasationがないことを確認した.Hbは7.5g/dlまで低下したが輸血なしに保存的治療に成功した.















文献考察:神経原性ショック
1)桝井良裕,明石勝也.II.救急初期診療における診療指針,5.症候に対する救急初療の診療指針,A.ショック.救急診療指針(日本救急医学会認定医認定委員会編集),へるす出版.97-103,2003.
 
2)【救急マニュアル2004】 症候・症状からの救急対応 ショック(解説/特集)
  Author:鍬方安行(大阪大学 大学院医学系研究科生体機能調節医学)
  Source:綜合臨床(0371-1900)53巻Suppl. Page904-908(2004.04)

神経原性ショックとは,神経系の循環調節機構の破綻により血圧が低下して生じるショックをいう.器質的神経原性と機能的神経原性に分類され,前者の原因として脳死,脳幹損傷,脳血管障害,脊髄損傷などがあげられ,後者としては血管迷走神経反射がある.それまで平常であった人が,あるきっかけを境に突然気分が悪いと訴え低血圧を呈する.通常横になって休むなどすれば特別の治療をしないで数分から数十分で回復する.きっかけは肉親の死などの強い精神的動揺,痛みあるいは痛みの予感,血液を見て感じる恐怖,心窩部の打撲などがあるが,共通しているのは副交感神経優位の循環動態と考えられる.低血圧はあっても頻脈を伴なわないのが特徴である.救急室で低血圧を呈する患者で,不安から神経原性ショックの要素が加わっていると思われる例はまれではない.

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