外傷(Trauma)シリーズ1 RESIDENT COURSE 解答 【症例 TR 5】

脾仮性動脈瘤.Pseudoaneurysm of spleen








上段の単純CTで↑が脾臓であるが,損傷はなさそうだし,周囲に腹水も血腫も認識できない.9時間後の造影CTでややdensityの高い腹水を脾臓周囲に認め(※),図10〜図12の△は脾臓実質よりdensityが高く,“contrast blush”であり,造影効果を失った脾臓実質(▲)を認める.△は表面平滑な鮮明な円形を示し仮性動脈瘤を示唆するが,extravasationか,extravasationを伴う仮性動脈瘤か,extravasationを伴わない仮性動脈瘤かの確定診断はsingle phase造影CTでは不可能である.血管造影でextravasationを伴わない(自然止血した)仮性動脈瘤(図A:↑)を認めコイルで塞栓した(図B:白矢印).Hbは7.2g/dl,Hctは21.8%まで低下したが輸血は行わず順調に経過した.








参考症例(脾損傷 IIIa→脾仮性動脈瘤破裂による遅発性脾臓出血):29歳男性,仕事中に2mの高さより転落し左背部を強打した.Vital signは安定しており,左上腹部に圧痛がある.日本外傷学会脾損傷分類 IIIa(図1〜図8)を認め,保存的治療を選択した.順調に経過したが,7日後に急に腹痛を訴えたのでCT検査を行った(図9〜図20).








上段の来院時の造影CTで脾損傷(図3と図4:↑)があり,周囲に少量の腹水を認める(▲)が,腹水量はわずかで,extravasationを認めないので保存的に治療した.7日後急変した時の造影CT(図9〜図18)で,明らかに腹水が相当量増量しており(※),図16〜図18の△は辺縁が平滑な円形の高濃度像で,仮性動脈瘤の可能性が高い.しかし,extravasation,extravasationを伴う仮性動脈瘤,extravasationを伴わない(止血している)仮性動脈瘤を確定診断するにはdouble phase 造影CTが必要である.CT撮影後に血栓化したと思われ,血管造影(図A)では異常を認めない.脾臓摘出術を施行した(図B).仮性動脈瘤破裂による遅発性脾臓出血例である.













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文献考察1:遅発性脾臓破裂(delayed splenic rupture)の頻度は1%
J Emerg Med. 2002 Aug;23(2):165-9.
Delayed splenic rupture presenting as unstable angina pectoris: case report and review of the literature.
Allen TL, Greenlee RR, Price RR.

The diagnosis of delayed rupture of the spleen can be challenging if the history of trauma is remote, or initially missed. Delayed rupture of the spleen can occur in approximately 1% of blunt force injuries to the spleen. We present a difficult case of delayed rupture of the spleen from remote, minor trauma and discuss the literature associated with this injury. PMID: 12359285

文献考察2
救急領域のCT画像 脾損傷(図説)
  Author:井上貴昭(大阪大学医学部附属病院 高度救命救急センター), 杉本壽
  Source:外科治療(0433-2644)88巻4号 Page847-857(2003.04)
遅発性脾臓破裂とは,受傷後48時間以上無症状に経過する潜伏期があり,その後突発的に腹腔内出血の出現するものと定義される.病態生理学的には被膜下血腫の溶解に伴って内圧が高まり,被膜破綻をきたして生ずるという機序と,仮性動脈瘤の破裂,多臓器により圧迫止血されていた脾周囲の血腫が破裂する機序が報告されている.発症のほとんどは3週間以内である.

文献考察3:”delayed diagnosis
J Trauma. 2005 Nov;59(5):1231-4.
Delayed splenic rupture: case reports and review of the literature.
Gamblin TC, Wall CE, Royer GM, Dalton ML, Ashley DW. PMID: 16385306
要旨:CT検査の出現以前の”delayed splenic rupture”は,実際は”delayed diagnosis”例である.初回のCTで脾臓外傷を認めず,後日脾臓破裂が確認された報告例は10例(表).

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