腹部全体痛シリーズ(Generalized Abdominal Pain)16 RESIDENT COURSE 解答 【症例 GR 79】

門脈内ガス・腸管壊死なし.Portal vein gas with no bowel necrosis






肝内のガス像は,肝辺縁から2cm以内の末梢に存在し,典型的な肝内門脈内ガスである.肝外でも,図4〜図8で上腸間膜静脈内にガス(↑)を認め,腸管由来であることを示唆する.しかし,はっきりした腸管壁内気腫は認めない.手術の適応となる腹部所見ではなかったが,門脈内ガスは腸管壊死を強く示唆するとして開腹術が行われた.腸管の壊死所見はなく,やや混濁した少量の腹水と一部の回腸に軽度の拡張と軽度の浮腫性壁肥厚を認め(おそらく図13〜図16の▲)腸炎と思われた.血培・腹水培養は陰性.術後に血便があり,便培養でCitrobacter freundii(ガス産生菌)が検出され,ガス産生菌による腸炎が原因の門脈内ガスと思われる症例である.










参考症例(門脈内ガス・壁内気腫・腸管壊死なし):69歳男性.既往歴:15年前胃潰瘍で胃切除,4年前腸閉塞を保存的に治療した.数時間前に腹痛と腹部膨満が出現し,増強したので来院した.体温:36.0℃,腹部は膨満しているが軟で圧痛もない.








肝内のガスは門脈内ガスで,図3〜図6では肝外門脈内にもガス(↑)を認める.図10〜図16で小腸の壁内気腫(▲)を示し,それらの壁の造影効果を認めず,小腸壊死と診断した.図4でIVCが虚脱し,図6から狭小化するSMAはれん縮(spasm)を起こしていることを示唆しNOMIが原因であろう.しかし,手術で索状物による単純閉塞を認め小腸が拡張していたが,外観上は壊死所見は認めなかった.小腸内容物を胃に送り吸引したら血性であったのでまだviableな虚血状態(一部粘膜だけの壊死)と判断された.









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文献考察:門脈内ガス
門脈ガス血症を合併した右閉鎖孔ヘルニア嵌頓の1例
  Author:川畑康成(播磨病院(健保) 外科), 楠本長正, 宮本勝文
  Source:外科(0016-593X)68巻2号 Page227-231(2006.02)
要旨:門脈ガス血症本邦集計例109例(表)中,腸管壊死例は56.9%でその死亡率は46.8%,腸管壊死が広範囲に及ぶ症例に特に高い.腸管非壊死例の死亡率は23.4%.

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