下腹部痛シリーズ(Lower Abdominal Pain) 8 EXPERT COURSE 解答 【症例 LE 39】

左卵管留膿腫.left pyosalpinx






図8〜図11でDouglas窩に腹水があり(※),図10で腹膜の肥厚を示し(↑),腹膜炎の所見である.骨盤腔内の低濃度の液状物質を含む管状構造物を図10の1から追跡すると,図5の11で盲端になる.Kerckring皺襞を認めず,図10の1と図5の11の盲端部位が離れており卵管と思われる.子宮は腫大し子宮内にも液貯留があり(▲),子宮内膜炎を示唆する.骨盤腹膜炎があり,子宮に所見があるので卵管留膿腫である.腹部エコー検査で卵巣嚢腫捻転と診断され手術が施行されたが左卵管留膿腫であった(図A).膿を150ml 吸引し左卵管卵巣摘出術を行った.






文献考察:骨盤内感染症(PID:pelvic inflammatory disease)
1)Hager WD, Eschenbach DA, Spence MR, Sweet RL. Criteria for diagnosis and grading of salpingitis. Obstet Gynecol. 1983 Jan;61(1):113-4.
2)松岡良(東京日立病院), 武谷雄二. 【感染症症候群(III)】専門領域別感染症 産婦人科領域感染症 子宮付属器炎(卵管炎,卵巣炎) 日本臨床(0047-1852)別冊感染症症候群III Page215-217(1999.03)
3)McCormack WM. Pelvic inflammatory disease. N Engl J Med. 1994 Jan 13;330(2):115-9. Review.

要旨:骨盤内感染症とは子宮,卵管と周囲組織の感染症で(手術と妊娠に続発するものを除く),ほとんどが膣と頚管からの上行性感染であり,子宮内膜炎,子宮留膿腫,卵管炎,卵巣炎,卵管卵巣留膿腫,骨盤腹膜炎,Douglas窩膿瘍などが含まれる.半数以上が淋菌かchlamydiaによる性行為感染症(STD:sexually transmitted disease)から続発し,近年はchlamydia感染が増加している.しかし付属器膿瘍からの検出菌はE.coli. Bacteroides. Peptostreptococcus. Enterococcus. Streptococcus. Staphylococcusなどが主で淋菌やchlamydiaが検出されることは極めて少ない.PIDを起こしやすいrisk factorsは若年者,多数のsex partner,子宮内避妊器具留置者,分娩後,流産後,人工妊娠中絶後などである.上の表2にHagerらの診断基準を示す.

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