下腹部痛シリーズ(Lower Abdominal Pain) 20 RESIDENT COURSE 解答 【症例 LR 100】

感染性腸間膜嚢腫.Infected mesenteric cyst








腹部を広範囲に占拠する巨大な嚢胞性病変があるが,隔壁(↑)を認め多胞性嚢胞である.腹痛と発熱で来院し圧痛があれば嚢胞の感染ということになる.手術で少量の混濁した淡血性腹水と,S状結腸と直腸に付着する白苔を認め,淡血性液状物を含む巨大な多房性腸間膜嚢胞を切除した(図A:手術所見,図B:切除標本,図C:割面).S状結腸間膜との癒着が最も強くそこが発生部位と思われた.病理:lymphangioma.炎症細胞の強い浸潤と広範な壊死・出血を認める.嚢胞内液の培養からCampylobacter speciesが培養された.








参考症例(腸間膜嚢腫:lymphangioma):57歳女性.人間ドックで発見された腹部左側の嚢胞性疾患.手術で最大径15cmの腸間膜嚢腫(図A)を切除し,病理検査でmesenteric cystと報告された.













拡大画像を見る
文献考察:腸間膜嚢胞(mesenteric cyst)
術前卵巣腫瘍と診断した腸間膜嚢胞の1例(原著論文/症例報告)
  Author:本島柳司(JFE健康保険組合川鉄千葉病院 外科), 山本義一, 高石聡, 舟波裕, 所義治, 関幸雄
  Source:日本臨床外科学会雑誌(1345-2843)65巻7号 Page1952-1956(2004.07)
Abstract:左下腹部違和感を主訴に来院した54歳女性に対し,腹部超音波・CTで観察された骨盤内の直径10cmの嚢胞性病変を卵巣腫瘍と診断の上,手術を施行した.術中所見では同病変は回腸腸間膜の嚢胞性疾患であり,切除標本からリンパ管腫との病理診断を得た.画像診断が比較的安定したと考えられる1985年以降で文献を検索すると,成人の腸間膜嚢胞は本邦では277例と比較的稀であり,このうち術前に同疾患を正診されていたのは48.4%に過ぎなかった.術前診断の正誤からみると,術前誤診例では腸間膜嚢胞に起因する合併症を51.1%に認め,さらに50.0%で緊急手術を必要とした.一方,正診例では合併症の発生は33.0%,緊急手術を必要とした症例も25.4%に過ぎなかった.腸間膜嚢胞は成人では比較的稀で,症状・病態が多彩である.また合併症には緊急性の高いものが多く,十分な検査を施行する時間的猶予が少ない事が術前診断をより困難にしていると思われる(著者抄録).
追記:腸間膜嚢胞性疾患の定義と分類は不明確で,一般に腸間膜嚢胞(嚢腫):mesenteric cyst=腸間膜リンパ管腫:mesenteric lymphangioma=mesenteric cystic lymphangiomaは同一疾患として報告される場合が多い.リンパ系の先天異常により発生するといわれ,小児に多い疾患である.成人の集計例162例の発生部位は表.

 【 ←前の問題 】  【 このシリーズの問題一覧に戻る 】 【 演習問題一覧に戻る 】