下腹部痛シリーズ(Lower Abdominal Pain) 20 EXPERT COURSE 解答 【症例 LE 99】

S状結腸間膜裂孔ヘルニア.Transmesosigmoid hernia








左右結腸はほぼ虚脱しているので下腹部で拡張した小腸は腸閉塞である.図14〜図16の△は腹水であり,拡張した小腸はgaslessで,図10〜図14で腸間膜の濃度上昇(▲:腹水または浮腫)を示し,壁の造影効果は図8の虚脱した小腸(白矢印)に比べるとかなり低下しており,絞扼性小腸閉塞の可能性が高い.図20のAと1から追跡すると,図15のFと図14の47で閉塞するのでclosed loopを形成している.胃が拡張し十二指腸(Du)は液状内容物を含んでいるので空腸での閉塞を示唆する.図4の空腸起始部:J1を肛門側へ追跡すると,図11と図12でbeak sign(↑)を示し,図13のJ10で閉塞する.近辺に虚脱した小腸(図13と図14のSB)があり,絞扼性小腸閉塞と診断できる.単純閉塞の小腸は上部空腸だから空腸が絞扼されているが,壊死に陥っている可能性が高い.図1のIVCが虚脱しており高度の脱水を意味する.手術で,S状結腸間膜に2つの裂孔があり,図Aの指先の方向へ空腸が嵌入し絞扼され,壊死に陥っており,約100cmを切除した.














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文献考察):腸間膜裂孔ヘルニア,本邦集計147例の検討(表)
横行結腸間膜裂孔ヘルニアの1例
  Author:角南栄二(鶴岡市立荘内病院 外科), 鈴木聡, 三科武, 小向慎太郎, 大滝雅博, 松原要一
  Source:日本消化器外科学会雑誌(0386-9768)37巻8号 Page1491-1496(2004.08)
  Abstract:内ヘルニアの中でもまれな横行結腸間膜裂孔ヘルニアの1手術例を経験した.症例は81歳の男性で,開腹手術の既往はないが過去に2度原因不明のイレウスでの入院歴があった.2002年1月初旬腹痛,腹部膨満,嘔吐を認め精査,治療目的に当院内科に入院した.イレウスの診断でイレウス管による減圧を行ったが,Treitz靱帯を越えた付近から管の前進が緩徐となり左上腹部でとぐろを巻くように停滞し,十分な減圧が得られなかった.そのため保存的治療開始24日後に手術を施行した.Treitz靱帯直上の横行結腸間膜に径約4 cmの欠損孔を認め,そこから網嚢腔にほぼ小腸全体が嵌入しており,横行結腸間膜裂孔による小腸イレウスと診断した.小腸は容易に整復され血行障害も軽度で欠損孔修復を行った.術後経過は順調だった.本症は極めてまれな病態ではあるが,開腹歴のないイレウスの原因として念頭に置くべき疾患の1つであると考えられた(著者抄録).
追記:性別は女性が51.7%とやや多く, 発症年齢は出生前から91歳までであった.発症部位別では小腸間膜が94例(64.0%)と多く, 続いてS状結腸間膜33例(22.4%), 横行結腸間膜18例(12.2%), 上行および下行結腸間膜1例ずつ(0.7%)であった. 20歳以下の発症で70例中64例が小腸間膜裂孔ヘルニアで, 若年者の腸間膜裂孔ヘルニアのほとんどは小腸間膜に発症していた. 結腸間膜裂孔ヘルニアは, S状結腸間膜裂孔ヘルニアで33例(75.7%) , 横行結腸間膜裂孔ヘルニアで18例中16例(88.9%)が41歳以降に発症しており,結腸間膜裂孔ヘルニアは小腸間膜裂孔ヘルニアに比べ晩年発症が多い傾向にあった.
  【参照症例】   1. 上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ20 【症例 EE 100】

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