下腹部痛シリーズ(Lower Abdominal Pain) 16 EXPERT COURSE 解答 【症例 LE 77】

空腸単純閉塞.腹部大動脈瘤.Simple adhesive obstruction of jejunum and AAA






図7〜図13の↑は腹部大動脈瘤であるが,周囲に血腫を認めず,破裂はしていない.それでは切迫破裂か? 他に腹痛の原因が見つからなければ切迫破裂として対応すべきであるが,図2の1〜図12の11は液状内容物とガスで異常に拡張した小腸(白矢印は胃全摘時のステイプラーと思われ,上部空腸)であり,小腸閉塞の可能性が高い.図13と図14の腸間膜濃度上昇(▲)も腸閉塞を裏付ける.腹部大動脈瘤の切迫破裂を否定できないと救急手術がなされ,癒着による空腸閉塞と腹部大動脈瘤を認めた. 癒着剥離と人工血管置換術が行われたが,種々の術後合併症を併発し不幸な転帰をとった.反省点として,NGチューブで空腸を減圧し,降圧剤で収縮期圧を110mmHg程度にコントロールし待期的手術が可能であった.また,嘔吐5回は腹部大動脈瘤破裂の症状としてはまれであり,むしろ腸閉塞を示唆し,腹痛の性状を詳しく聴取しておれば間欠的で,十分に時間をかけて(5分以上:下記文献)腹部聴診をしておればhigh pitched,metallic soundを認めて腸閉塞と診断でき,救急手術は避けられた可能性を指摘したい.









文献考察:急性腹症患者の腹部診察.
1)Emerg Med Clin North Am. 2003 Nov;21(4):873-907
Surgical complications of selected gastrointestinal emergencies: pitfalls in management of the acute abdomen.
Newton E, Mandavia S.

Complaints referable to the abdomen are common emergency department presentations. Many of these conditions prove to be benign and self-limited, whereas others are potentially catastrophic. Because serious and benign intra-abdominal conditions share many relatively nonspecific symptoms, it is often difficult to identify patients who have life-threatening problems early in the course of their disease. Apart from relieving the patient's symptoms, the emergency physician's primary role is to detect and stabilize life-threatening conditions in a rapid and cost-effective manner.PMID: 14708812
追記:腹部診察は視診→聴診→打診→触診の順で行うべき.

2)【消化器外科領域の緊急手術・処置】 急性腹症患者の診断の流れ 
  Author:石倉宏恭(関西医科大学高度救命救急センター 救急医学科), 中谷壽男
  Source:外科(0016-593X)65巻3号 Page249-255(2003.03)
  Abstract:急性腹症に対する確定診断にいたるまでのアプローチ法について概説した.腹腔内には多岐の診療科にまたがる様々な臓器が存在するため,急性腹症の原因確定は的確な診断手順で診察をすすめ,確定診断にいたる能力が必須である.加えて,「急性腹症」患者に遭遇したさいに最も重要なことは,腹痛の原疾患に対してただちに緊急手術を実施しなければならないか否かの判断を速やかに決定することである.
追記:腹部の身体所見を観察する場合は視診,聴診,打診,触診の順で腹部全体に実施する.腸雑音は亢進,低下あるいは消失程度の確認をする.金属性有響音(high pitched,metallic consonating sound)の聴取を見逃さないために少なくとも5分間聴取する必要がある.

3)【小児の救急医療 知っておくべき対処法】 小児の急性腹症の診断と治療
  Author:野口啓幸(鹿児島大学 医学部 小児外科), 高松英夫, 田原博幸, 加治建, 村上研一, 坂本浩一
  Source:小児科(0037-4121)44巻3号 Page315-323(2003.03)
  Abstract:小児の急性腹症の原因疾患は,年齢層によって好発疾患があり,病態別では急性腹膜炎,腸管閉塞,臓器の血行障害,その他に分類される.その原因疾患の診断は,必ずしも容易ではないが,急性腹症では病状の進行が早く急変することも多いために,手術の時機を失することのないよう,必要最小限の検査で手術が必要か否かを決定するよう心掛けるべきである.急性腹症の治療に関しては,いくつかの新しい方法が導入され,特に腹腔鏡下手術は,急性腹症の診断と治療を兼ね備えた手技であり,患児のQOLの面からみても優れた方法である.今後は,適応の拡大が期待される.
追記:触診を行うと腸雑音は誘発されるため触診より先に聴診を行う.
  【参照症例】   1. その他(Miscellaneous)シリーズ4 【症例 MR 18】
2. 上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ19 【症例 EE 94】

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