上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ18 EXPERT COURSE 解答 【症例 EE 89】

トウモロコシによる食餌性イレウスsmall bowel obstruction due to food bolus(corn) impaction








小腸だけの拡張だから小腸閉塞である.Gaslessで,図12と図13で腹水があり(△),図14と図15で腸間膜の浮腫がある(▲)ので絞扼性小腸閉塞を疑い図20の1とAから拡張した小腸を追跡する.1は図3の7まで拡張し,図4の虚脱した左側の空腸へ連続する.Aは図7のFから小腸内糞便と変化し図9のJで閉塞し,正常な小腸K→Mと右側(回腸側)へ展開する.移行部には腫瘍性病変や腸重積などの明白な病変はないので腸閉塞の原因は癒着か食餌性イレウスということになる.拡張した小腸の壁の造影は良好だがgaslessで腸間膜間に腹水があるので内ヘルニアによる絞扼性イレウスを疑い診断的腹腔鏡を行った.中等量の透明な腹水を認め,絞扼所見はなく,8cmの小切開から小腸を検索するとトウモロコシと思われる食物残渣が透けて見えたので盲腸へ押し込み手術を終了した.前日にトウモロコシ入りのサラダを食べたという.












参考症例(食餌性イレウス):64歳女性.既往歴:36年前帝王切開.6時間前に間欠的な心窩部痛が出現し,次第に増強した.腹部は上腹部に軽度の圧痛があるのみ.図4〜図7のやや拡張した↑の小腸は小腸内糞便を含み,図8の1から数字順に展開し拡張した小腸となる.図2のAは回腸末端で図4のEとなり閉塞部位である.そこに癒着による狭窄や屈曲などの閉塞病変がなければ食餌性イレウスの診断となる.Closed loopの可能性があるとの判断で手術が施行された.癒着はなく回腸末端に閉塞部位(caliber change)を認め,原因は柔らかい食物の塊と判明した.腸管を切開せず食物塊をmilkingで盲腸へ送り手術を終了し,術後は順調に経過した.













文献考察:食餌性イレウスの診断と治療方針
【イレウス】 その他のイレウス 腸管内異物によるイレウス 食餌性イレウス・胆石イレウス
  Author:高見元敞(豊中市立豊中病院), 島野高志, 北田昌之, 塚原康生, 柴田高, 新居延高宏, 福島幸男, 藤田淳也, 池田公正, 林田博人
  Source:救急医学(0385-8162)24巻7号 Page841-844(2000.07)
要旨:日常われわれが摂取する食物が原因となって発生するイレウスを, 食餌性イレウス(intestinal obstruction due to food boli)と称する. 誘因となる食餌の種類は種々雑多で, 日本では, こんにゃく類, こんぶ, わかめ, しいたけ, 柿胃石など消化の悪いものが目立つ. 閉塞部位は大部分が回腸で, 過去にBillroth II法の胃切除術を受けていることが多い. Billroth II法の術後は, 消化の悪い食物塊が広い吻合口を通って, 一挙に小腸内に移動し, 内腔の狭い回腸下部で腸管を閉塞するものと考えられる. 胃切除後の患者が糸こんにゃくやラーメンなどを, ほとんど咀嚼せずにあわてて食べた場合, 消化管を通過するうちに膨化して一塊となり, 腸管の完全閉塞を起こすのであろう. また過去に開腹術の既往がある場合は, 腸管が癒着し, それが食餌性イレウスの誘因となる.これまで, 術後の癒着性イレウスとして保存的に治療されてきた腸閉塞症の中には食餌性イレウスと考えてよい症例が含まれている可能性がある. 食餌性イレウスの臨床症状の多くは腹痛と嘔吐であり, 通常のイレウスと何ら変わるところはないが, 既往歴や, 発症する前の食餌の摂取状況を詳しく聴くことが, 診断の糸口になる. 治療に当たっては, できるだけ保存的療法に努め, やむをえず開腹術を行った場合でも, まず腸内容を用手的に結腸まで誘導する(milking)ことも試みるべきである.腸切開を行う必要がある場合, 切開はできるだけ閉塞部位を避け, それより近位側の浮腫を生じていない腸管を選ぶべきである.

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